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2025.7

ケニア
- ナイロビの空をクリアに:EV車が変える交通事情 -

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EVバスにかかる期待

ケニアの野生生物たちを見るサファリツアーを堪能したくて、ケニアに赴任して早2年。首都ナイロビの生活は予想以上に快適でとても楽しんでいるものの、日々の生活で唯一ストレスを感じるのが、当地のひどい道路渋滞(写真)だ。多くのドライバーたちの荒い運転、整備不良車による黒い排気ガス等もあり、特に朝夕の交通量が増える時間帯の移動はなかなかストレスフルである。そのような課題の解決の一助となりそうなのが、CFAOケニア社出資によるBasiGo社の電気自動車(EV)バスだ。

ナイロビ市内の道路(©在ケニア日本大使館)

BasiGo社EVバス(© BasiGo)

EVバス事業、開始のきっかけ

まずは当地の交通事情について概説したい。ここナイロビで多くの地元民の移動の足となっているのが、カラフルにペイントされた「マタツ」と呼ばれるバンやバスだ。ケニア自動車市場の約10万台のうち、約1万台がマタツ・バスと見積もられている。これらの一部は黒い排気ガスを撒き散らしながら、とりわけ荒い危険な運転をしているのだが、それには理由がある。

マタツ・バスは、各郡にいくつか存在する組合に所属する個人事業者によって運行されている。それぞれ大まかな運行ルートがあらかじめ登録されているものの、時刻表は存在しない。また、停留所も明確に定まっていないため、一見さんには少々ハードルが高い(注:車内でのスリ被害等もあるため、邦人の利用は非推奨)。

事業者としては、とにかく乗客を満杯に乗せて収益を稼ぎたいので、少数の乗客だけでは発車せず、最初の乗車場でなんとか満席にしようと滞留する。いざ満席になり発車したら、あとは早く移動することで回転率を上げたいので、交通ルールを無視して非常に荒っぽい運転をする。そのため、古い車両がどれだけボコボコに傷がついていても、多少傾いていても、ランプが片方切れていても、黒い排気ガスを出していても、とにかく動きさえすれば立派な現役車両として活躍している。

コロナ禍の折、ロックダウンによりナイロビ市街のマタツ・バスの運行が完全に禁止されたことで空気が澄み、普段は見えないケニア山の山頂(ナイロビから100km以上離れている。標高5,199m。私も登頂した)がナイロビから見えたことに感動したBasiGo社は、2021年にEVバス事業を始めることとなった。

市民の移動の足、マタツ
(© 在ケニア日本大使館)

ケニアは再エネ大国

実は、ケニアは再生可能エネルギー大国である。総発電量の約9割が再エネ由来で、発電割合の高い順に地熱(45%)、水力(20%)、火力(10%)、風力(15%)となっている(ちなみに、ケニアの大地溝帯にあるオルカリア地熱発電所は日本のODAにより整備され、日本製タービンが利用されている)。

夜間に蓄電されずに捨てられている発電を活用し、EVバスが運行していない夜中に車庫で数時間充電することで、ガソリンやディーゼルよりも安価に電気でエネルギーをチャージすることが可能となる。しかも再エネ電気は黒い排気ガスも排出せず、環境にもクリーンときた。もちろん、初期投資となる車体そのものの価格は、ガソリン車の1.5倍程度に高額である。しかしながら、初期コストの高さは、その後の「ガソリン代-電気代」の価格差により、ものの3-4年で取り戻すことができ、中長期的に見れば経済的でもある。

EVバスの効率性・快適さが好評を博す

BasiGo社はバスの運行システムについても新たな取組をしている。

既存のマタツ・バスは上述の通り、果たしていつどこで、どこ行きのものに乗り込めるのか、あまりクリアでない。

一方のBasiGo社EVバスは、スマートフォンのアプリ上で運行状況を確認でき、乗車予約も可能だ。運行側にとっては、今どこにバスがおり、どこで何名乗客が乗車する予定か等が全て把握できるため、「最初の停留所で満席になるまでずっと粘り、その後猛スピードで駆け抜ける」ということをせずに済む。アプリ上で乗車賃の支払いもできるため、既存マタツ・バスに乗車している「コンダクター」と呼ばれる乗車賃集金者に着服される構図にもなっていない。

実はもう一点乗客にとって良い点として、EV車は座り心地がよく快適ということがある。これらの利点により、マタツ・バスよりも若干乗車賃が高いもののEV車を選好する乗客が少なからずいる。

BasiGo社EVバスの快適な車内(© BasiGo)

ケニア山を臨む日のために

BasiGo社により、現在ケニアでは75台のEVバスが走っている。環境フレンドリーな点だけでなく、その経済性の観点からも続々と車体の注文が入っており、同社は今後3年間で1,000台まで増やすことを目標にしている。普及に関し、EV車購入についての民間個人事業者に対する融資制度が整っていない等の課題はあるものの、ナイロビからケニア山を臨める日が来るのを毎日、心待ちにしている。

執筆者紹介

在ナイロビ日本政府代表部(在ケニア日本大使館内)一等書記官/
UNEP常駐副代表
木村 麻里子(きむら まりこ)

2011年4月環境省に自然系技官(通称:レンジャー)として入省。釧路(知床担当)、奄美大島、沖縄本島やんばるエリアに赴任したほか、本省においてCITES(ワシントン条約)、海洋保護区、CBD(生物多様性条約)等を担当。2023年3月ケニア赴任。主にUNEP(国連環境計画)業務のほか、対ケニアの環境案件(廃棄物管理や気候変動等)に従事。

マクロ情報:ケニア (2023年)

GDP(百万米ドル) 114,733
人口(百万人) 50
1人あたりGDP 2,265
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ODA見える化サイト「オルカリア5地熱発電開発事業」
https://www.jica.go.jp/oda/project/KE-P31/index.html