現地の声:お伝えしたいこんな魅力
2025.9
インド
日本の環境技術の普及促進活動を通じた
インドの脱炭素化及び環境改善への貢献
- 日本・インド技術マッチメイキング・プラットフォーム -(JITMAPⅰ)
日本・インド技術マッチメイキング・プラットフォーム(JITMAP)は、日本の環境技術(低炭素技術・省エネ技術含む)メーカーとインドの企業をマッチングし、インドにおける日本の環境技術とその効率的な運用手法の普及を促進するためのプラットフォームです。
インドの課題解決への貢献
インドは、GHG排出量が中国、米国、欧州連合(EU)に次いで世界第4位であり、2015年12月の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において合意された「パリ協定」で打ち出された方向性を受け、NDCにおいて、2030年までに排出量を2005年⽐でGDP当たり45%削減する⽬標を掲げています。また、モディ首相は、2021年英国グラスゴーで開催されたCOP26での演説において、インドが2070年までに温暖化ガス排出の実質ゼロをめざすと初めて表明しました。その達成に向け、同国の総エネルギー消費量の約56%を占める産業部門のエネルギー効率の改善は、国レベルの重要課題の⼀つとなっています。JITMAPは、インドの産業分野への環境技術の普及促進を通じたGHGの排出削減やエネルギー効率化に貢献していきます。
インドでは2012年から、大企業におけるエネルギー効率改善への取組が広がりつつあります。国家気候変動⾏動計画(NAPCC)のエネルギー効率化国家計画(NMEEE)の下で、省エネルギー達成認証(PAT)制度の運用が開始されました。この制度を管轄する電力省エネルギー効率局(BEE)は、日本の⼀般財団法⼈省エネルギーセンター(ECCJ)の協⼒の下、企業向けの省エネルギーガイドラインを策定しています。一方、中⼩企業での省エネへの取組はまだ遅れており、ガイドラインの浸透が課題となっています。 JITMAPはこのような潜在的なニーズの発掘にも努め、日本の環境技術の適用事例を増やし、その課題の解決に貢献していきます。
また、世界保健機関(WHO)のデータベース(2018年)において世界で最も汚染されている15都市のうちの14都市がインド国内にあり、大気汚染の改善が喫緊の課題となっています。大気汚染のみならず、人口増加や急速な経済発展に伴う廃棄物の不適切な管理による環境悪化等の環境問題も深刻になっています。これらの状況を改善すべく、環境省とインド環境・森林・気候変動省は、環境分野における両国の協力の推進を目的とし、汚染管理(大気・土壌・水)、廃棄物管理、環境技術、並びに気候変動等の8分野に関する覚書を2018年10月に締結しています。JITMAPではその覚書の枠組を活用した課題解決への協力を通じて、2国間の環境協力の更なる促進に貢献していきます。
地球環境戦略研究機関(IGES)関西研究センターは、日本政府の支援を受けてインドで実施してきた低炭素技術移転に関する普及・促進への取組(2010~2015年度)を通じた日本のクロスカッティングな低炭素技術のインド企業への移転・導入効果の検証、インドにおける日本の低炭素技術の移転の可能性やその課題に関する調査を実施しました。その結果、インドへの低炭素技術の適用に可能性があるにもかかわらず、日本技術の情報と認識のギャップ、企業や組織のトップ経営陣へのアクセス、インドの商習慣や市場、インドの政策/規制・規格・基準等がインド市場への進出への障壁となっていることが分かりました。また、それらの障壁の克服のために様々な取組努力をされている日印機関の取組をうまく調整・連携させる仕組がないことも分かりました。
これらを踏まえ、日本の低炭素技術に関する理解を向上し、低炭素技術取引に関わる機関の取組を調整し、低炭素技術を有する日本企業とその技術を必要とするインド企業、それを支援する政府機関や支援機関等を結び付ける枠組を構築することが急務であることがわかり、2017年に環境省の支援の下、日本・インド技術マッチメイキング・プラットフォーム(JITMAP)を設立しました。
JITMAPの事業内容
JITMAPは、IGES関⻄研究センターとインドエネルギー資源研究所(TERI)を事務局として、日印両国の協力関係機関等と連携し、日本の環境技術を有する企業とその技術を必要とするインドの企業をマッチングし、技術移転の促進をサポートする活動を行っています ii。具体的には、日本企業の専門家にご協力いただきながら、インド企業の経営者やエネルギー管理者、エネルギー診断⼠向けのセミナーやワークショップを開催して、日本の環境技術に関する理解を深めてもらっています。また、その技術の適⽤可能性及びその経済効果等を把握するため、選定した現地企業において技術適用可能性調査(FS)を実施しています。さらに、その技術の伝搬者となる可能性の高いエネルギー診断⼠により実践的な技術研修も実施しています。
これまでのJITMAPの活動事例
これまでのJITMAPの主な活動事例は以下のとおりです。
活動事例1: インドにおける日本の環境技術の導入に向けたセミナー 「日本-インド技術マッチメイキング・プラットフォーム(JITMAP)の活動を通じたインドにおける日本の環境技術の移転に関する取り組みと課題」 |
日時: 2023年1月13日13:30-14:50(日本時間)、10:00-11:20(インド時間) 場所: インド・ニューデリー 参加者:主に中央・地方政府関係機関、企業、学術機関、国際機関・NGO等、日本・インド環境ウィークの現地参加者、オンライン参加者(約150名) |
活動概要 本セミナーでは、JITMAP を通じた日本の環境技術の普及促進活動の概要や成果について紹介すると共に、両国の関係者から、環境技術の導入における障壁や課題を共有し、それらの解決策に関する議論を通じて、インドのネット・ゼロ達成に向けた、日印連携による取組の重要性を発信した。 |
活動事例2: インドにおける日本の環境技術の導入に向けたセミナー 「環境技術における日印協力の推進」 |
日時: 2023年2月14日13:00-15:30(日本時間)、9:30-12:00(インド時間) 場所: インド・マハラシュトラ州プネ 参加者:マハラシュトラ州の政府機関や企業関係者等(約65名) |
活動概要 本セミナーでは、JITMAP を通じたこれまでの日本の環境技術の普及促進活動の概要や成果等を紹介するとともに、インド・日本・その他の国における取組経験や日本の環境技術を紹介し、今後、同州における大気汚染等の環境問題を克服するうえでの日印両国の環境協力の果たす役割やJITMAPを通じた環境協力等について意見交換等を行った。 |
活動事例3: 日本の環境技術の導入促進に関する研修セミナー 「日本の低炭素技術とそのベストプラクティス」 |
日時: 2024年1月23日 13:30-20:30(日本時間)、10:00-17:00(インド時間) 場所: インド・チェンナイ 参加者:インドのエネルギー診断士、コンサルタント、エネルギー管理者、政府関係者、大学機関関係者等(約55名) |
活動概要 本研修セミナーでは圧縮空気・蒸気管理システムを対象技術として、日本の低炭素技術(LCTs)とその運用の実践に関する知識と能力の向上を通じた日本の環境技術の普及促進を目的に、印全国生産性評議会(NPC)とタミル・ナドゥ州エネルギー開発公社(TEDA)の協力を得て、エネルギー資源研究所(TERI)と連携して開催。 |
活動事例4: インドにおける日本の環境技術の導入に向けたウェビナーシリーズ 「ネット・ゼロ社会へ -JITMAPの活動の成果、教訓及び今後の方向性」 |
日時: 2023年1月13日13:30-14:50(日本時間)、10:00-11:20(インド時間) 場所: インド・ニューデリー 参加者:主に中央・地方政府関係機関、企業、学術機関、国際機関・NGO等、日本・インド環境ウィークの現地参加者、オンライン参加者(約150名) |
活動概要 本セミナーでは、JITMAP を通じた日本の環境技術の普及促進活動の概要や成果について紹介すると共に、両国の関係者から、環境技術の導入における障壁や課題を共有し、それらの解決策に関する議論を通じて、インドのネット・ゼロ達成に向けた、日印連携による取組の重要性を発信した。 |
これらのJITMAPの活動に参加したインド政府機関関係者や参加者からは、大企業と比べて省エネルギーの取組が一般的に遅れているインドの中小企業も対象としているJITMAPの取組に多くの称賛の声をいただいています。
さらに、これらのJITMAPの活動やその成果は、TERIの代表的な月刊誌でもある「TerraGreeniii」(2025年世界持続可能な開発サミット特別号)やインドの中小企業セクターを対象としたエネルギー効率化の推進に携わるインド国内外の公共・民間の様々な組織や機関の知識や経験を集約して共有するプラットフォームである「SAMEEEKSHAiv」等の専門機関紙や現地マスメディアに取り上げられて報道されてきています。
これまでのJITMAPの活動成果事例
次にこれまでのJITMAPの活動事例の成果のいくつかについて紹介します。
活動成果事例1: 日本人専門家が指導した圧縮空気システムの効率的運用手法の採用で、インド企業が約30%の省エネ達成 技術適用可能性調査(2017年)、フォローアップ調査(2024年) |
活動成果事例2: インド企業による日本の高効率な空気圧縮機の導入 技術適用可能性調査(2017年)、導入(2018年) |
活動成果事例3: 圧縮空気システムに関する技術適用可能性調査(FS)と企業内研修を通じてインド日系メーカーの更なる省エネに貢献 技術適用可能性調査と研修(2018年) |
活動成果事例4: 研修セミナーを通じて蒸気管理システム技術でインド企業との商談成立 研修セミナー(2024年) |
活動成果事例5: マハラシュトラ州の大気汚染改善に向けて日印の関係者が意見交換 日本の環境技術の移転促進と日印協力の重要性を確認 セミナー(2023年) |
これらのJITMAPの活動に参加した多くのインド企業やエネルギー専門家及び日本の技術専門家からは「日本人専門家の提案を実施してエネルギー消費を削減できただけでなく、従業員の省エネ意識を高めることができた」や、「JITMAPの活動を通じて、普段は(協力日本企業だけで)アクセスするのが困難なインド企業幹部や経営陣と面談して意見交換ができたことが貴重な機会でした。これからもこのような機会をお願いします」等の多くの感謝の声が届いています。
JITMAPの展望
2025年8月、日印政府により二国間クレジット制度(JCM)について署名されました。JCMは今後パリ協定第6条に基づく協力的アプローチの一つとして、日本の環境技術をインドに移転・導入することで生じるカーボンクレジット/カーボンオフセットを通じて、両国がGHG排出削減目標の達成と環境問題の解決を同時に推進することに大きく貢献することが期待されています。
2025年8月、日印政府により二国間クレジット制度(JCM)について署名されました。JCMは今後パリ協定第6条に基づく協力的アプローチの一つとして、日本の環境技術をインドに移転・導入することで生じるカーボンクレジット/カーボンオフセットを通じて、両国がGHG排出削減目標の達成と環境問題の解決を同時に推進することに大きく貢献することが期待されています。
JITMAPは今後もその活動を通じて、インド企業の脱炭素化やエネルギーの効率化及び環境改善に貢献していくとともに、JCM等を活用した日印企業のマッチメイキング等の機会創出に取り組むことによって日印の環境協力に貢献していきます。
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日本企業によるFS実施 |
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研修セミナーでの講義 |
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執筆者紹介 地球環境戦略研究機関関西研究センター IGES関西研究センターでは、現在インド国への低炭素技術の移転に関するプロジェクトを担当。これまで主にアジア(スリランカ、インドネシア、カンボジア、東ティモール)やアフリカ地域(ウガンダ、ブルキナファソ、エジプト)の農業・農村開発分野におけるJICAやWFPの技術協力プロジェクトのコーディネーターとして業務を行った。同志社大学法学部法律学科卒業、モントレー国際大学大学院国際政策学部国際政策学科修了。 |
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マクロ情報:インド(2023年)
GDP(百万米ドル) | 3,638,490 |
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人口(百万人) | 1,429 |
1人あたりGDP | 2,547 |
- 本資料はJPRSIが信頼に足ると判断した情報に基づいて作成されていますが、その正確性・確実性を保証するものではありません。
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- 本資料へのリンクは自由です。それ以外の方法で本資料の一部または全部を引用する場合は、出典として「JPRSI(環境インフラ海外展開プラットフォーム)ウェブサイト」と明示してください。
i JITMAPはIGESとTERIが事務局として、日印両国の政府関係機関・ビジネス団体等の協力関係機関等と連携し、インドにおいて日本企業の環境技術の普及を促進するための活動を実施しています。具体的には、日本企業の協力を得て、インド企業の経営幹部やエネルギー管理者、エネルギー診断⼠向けの⽇本の環境技術に関する理解を深めてもらうセミナーやワークショップ、技術の適⽤可能性及びその適用効果等を把握するための現地企業における技術適用可能性調査(FS)、さらに、技術の伝搬者となる可能性の高いエネルギー診断⼠やエネルギー管理者等を対象としたより実践的な技術研修を実施しています。
ii グジャラート州での活動において、同州との間で相互協力に関する覚書を締結している兵庫県からも、IGES関西研究センターの活動を通じて支援を得ています。
iii 「TerraGreen」(2025年世界持続可能な開発サミット特別号)
https://terragreen.teriin.org/index.php
iv 専門機関紙「SAMEEEKSHA」https://www.sameeeksha.org/