現地の声:お伝えしたいこんな魅力
2026.1
パプアニューギニア
― 制度設計段階からの関与で先行者利益を! ―ⅰ

森林大国パプアニューギニアの概要
パプアニューギニア(PNG)は、オーストラリアの北に位置する南太平洋の島嶼国家であり、約1,000万人の人口を抱えています。14ある太平洋島嶼国の中では、人口・面積・経済規模のいずれにおいても圧倒的な存在感を示しています。文化的にも800以上の民族・言語が共存する部族社会であり、政治・経済・文化の面で独自の発展を遂げてきました。
日本では広く知られている国ではないかもしれませんが、両国の結びつきは強固です。一例をあげるとすれば同国北東部に2023年に開港したナザブ・トモダチ空港は、名前からもわかるように日本が支援して完成した空港です。日本に思い入れのあるマラペ現首相の発案で「トモダチ」という言葉が空港の正式名称に入ったという逸話があるほど、親日国家の一つと言えるでしょう。
国家の中枢・ハイレベルだけではなく、一般の方の中にも日本人海外協力隊の活動などを通じて日本の支援に感謝している人は多くいます。環境関連で言えば、廃棄物管理の一部でもあるゴミ拾いを通じて子どもたちの芸術教育につなげ、現地で高く評価されている隊員もいます。昨年2025年は日本がPNGに対しODAを供与しはじめて50年の節目の年。長年にわたり様々な支援を行ってきたこともあり、首相のみならず現地の人にとっても日本という国は身近で、尊敬の対象となっています。
PNGは鉱物資源や天然ガスなどの資源輸出に依存する経済構造を持つ一方で、国土の約70%以上が森林に覆われており、世界有数の森林大国として知られています。PNGの森林被覆率は2015年時点で約72.5%と報告されておりⅱ、国土の大半が熱帯雨林に覆われています。これは世界的にも高水準であり、同国の生物多様性、水資源の涵養、土壌保全、さらには地域住民の生活基盤として極めて重要な役割を果たしています。
他方で、森林資源の商業伐採や農地転用による環境劣化が深刻化しています。Global Forest Watchの統計によれば、2001年から2024年の間にPNGでは約200万ヘクタールの森林が失われており、2000年時点の森林面積の約5.0%に相当します。これは年平均で約0.22%の減少にあたり、持続可能な森林管理の必要性が一層高まっていることを示していますⅲ。特に違法伐採や焼畑農業による森林減少は、温室効果ガス排出の主要因となっており、国際的な気候変動対策の文脈でも注目される存在です。森林減少の主因は、商業伐採、農地拡大、インフラ開発、そしてエネルギー源としての薪利用です。特に地方部では、調理や暖房に薪を使用する家庭が多く、森林資源への依存度が高い状況です。現行の生活様式のままでは森林保全の実効性確保が困難であり、代替技術やインフラの導入が不可欠です。
このような状況を受けて、日本政府(JICA)は2011年以降、PNG森林公社(PNGFA)と連携し、森林資源モニタリング能力の向上を目的とした技術協力プロジェクトを展開していますⅳ。 この支援は単なる技術移転にとどまらず、持続可能な森林経営を通じた気候変動対策(REDD+)ⅴの制度設計段階から日本が関与するものであり、PNGにおける森林保全政策の“根っこ”を支える重要な役割を果たしています。PNGにおけるREDD+の取組は国連食料農業機関(FAO)が主導していますが、この取組に必要不可欠な測定・報告・検証(MRV)体制の整備を通じ、森林保全と気候変動対策の両立に向けた基盤が着実に築かれているのです。

ナザブ・トモダチ空港(JICA提供)
日本の環境インフラ輸出はREDD+にも貢献
REDD+の実効性を高めるためには、森林伐採の原因となる生活・産業構造そのものに働きかける必要があります。ここに、日本企業の環境インフラ技術が活用される余地が広がっています。特にPNGでは制度設計が進行中であり、生活インフラの整備が森林保全と直結する構造が明確です。
1. 再生可能エネルギーの導入
PNGの電化率は全国平均で20%、地方部では15%未満とされておりⅵ、再生可能エネルギーの導入余地は非常に大きいです。PNG政府は2030年までに電化率70%達成を目標に掲げており、分散型電源としての太陽光・小水力・バイオマス発電の導入が急務となっています。
USAIDが支援したPNG投資促進庁(IPA)の報告書によれば、エネルギー関連インフラ整備には年間1億ドル以上の投資が必要とされておりⅶ、日本企業が得意とする高効率・長寿命の太陽光パネル、蓄電池、スマート制御技術は、地方部の生活改善と森林伐採抑制の両面で貢献可能です。
また、PNGは日本との間でJCM(二国間クレジット制度)協定を締結しており、再エネ導入による温室効果ガス削減をクレジット化することで、国際的な資金調達や制度連携も可能となります。REDD+とJCMの両輪で、制度設計と技術導入を連動させる展開が期待されます。
2. 廃棄物処理・水インフラの整備
都市部では、廃棄物の未分別・未処理による環境汚染が深刻であり、特に首都ポートモレスビーでは下水未処理率が70%以上とされ、海洋汚染や感染症リスクが顕在化しています。PNG政府は「水・衛生国家戦略(WASH)」を策定し、2030年までに安全な水と衛生へのアクセス率を都市部で95%以上、農村部でも70%以上に引き上げる目標を掲げていますⅷ。
この戦略に基づき、PNG政府は日本政府/JICAに対し首都の下水道整備を要請し、当該分野では初となる本邦技術活用条件(STEP)での円借款が供与されましたⅸ。2020年に完成した下水処理場では、エネルギー消費が少なく、窒素の効率的な除去が可能な高度処理オキシデーションディッチ(OD)法が採用されています。OD法は小規模な下水道に適した水処理方式として日本で開発された技術です。日本の地方自治体では一般的に採用されている処理方式であり、各地で技術的な工夫が続いているものの、PNGでは過去OD法を活用した下水処理設備はありませんでした。PNG政府のニーズを踏まえ、JICAが支援した本下水処理場は大日本土木が土木・建築工事と機械・電気据付工事を行い、日立製作所が機械・電気設備の設計・機材納入を担当。試運転指導や現地運転員のトレーニングは北九州ウォーターサービスが実施し、全体の施工監理はNJSコンサルタンツが請け負うⅹ、まさにオールジャパン体制で実現した環境インフラの海外進出案件の事例と言えるでしょう。
事業の完成に伴い、ポートモレスビー市沿岸部での下水道普及率や汚水処理人口が増加しているほか、周辺海域の水質指標(大腸菌・窒素・リンなど)も大幅に改善しています。現地政府・住民からも生活改善に高評価が得られており、日本の環境インフラ輸出が世界に貢献した好事例ですⅺ。
また、ポートモレスビー市内のバルニ廃棄物最終処分場には、日本の「福岡方式」ⅻ(準好気性埋立方式)が導入されており、2016年以降、効率的かつ周囲への汚染の少ない処理法として安定的に稼働しています。都市部の廃棄物処理に加え、農村部も含めた分別・堆肥化・バイオガス化技術の導入により、年間数百万ドル規模の市場形成が可能とされており、焼却・野焼きによる森林への圧力を減らす効果も期待されます。

バルニ廃棄物最終処分場
(かいはつマネジメント・コンサルティング提供)
3. クリーン調理器具・省エネ住宅の普及
PNGでは約80%の家庭が薪・木炭を調理燃料として使用しており、クリーン調理器具の潜在市場は20万世帯以上に及びますxiii。国際エネルギー機関(IEA)やGCF(緑の気候基金)の報告では、世界全体でクリーン調理普及に年間80億ドルの投資が必要とされており、PNGもその対象国の一つとされていますxiv。
PNGにおける実効性・即効性の高い関連インフラとしては、第一に高効率かまどや電気調理器などの導入、第二に断熱・通風設計を活用した省エネ住宅の普及が挙げられます。地方部(農村・森林エリア)に多数存在する家庭のエネルギー消費量を抑制することは、森林伐採の抑制に直結する技術的貢献となります。
これらの製品・技術は、REDD+の「代替的生活支援」枠組の中で提案可能であり、制度設計と技術導入が連動する形で展開できます。日本企業にとっては単なる製品輸出にとどまらず、PNGにおけるREDD+制度の根幹に関与しうる“共創型インフラ輸出”の好機と言えるでしょう。
進出に不可欠な現地との共創に向けた情報収集
PNGは独自の文化が根付いており、多様な部族・言語が併存していることから、日本企業の現地市場への食い込みには一定のハードルが存在します。具体的に言えばPNGは部族社会の影響が強く、地域住民との信頼関係構築がプロジェクト成功の鍵を握ります。
日本企業においては、単なる技術輸出にとどまらず、現地パートナーとの共創型アプローチを取ることが推奨されます。この点で、これまでPNGに馴染みがない企業にとっては、国際機関「太平洋諸島センター(PICxv)」への相談が有効な第一歩となるでしょう。
PIC
PICは日本政府と太平洋諸国の間の貿易・投資・観光促進を担う機関であり、PNGを含む島嶼国への進出支援において、日本で唯一の専門窓口と言えます。特にPNGの投資促進庁(IPA)とは日本企業の現地進出に向けて協力するための覚書(MOU)を締結しています。
PICは公的な立場から、PNGの適切な政府機関や関係部局を紹介できる役割を担っており、現地制度や行政手続きに不慣れな企業にとって信頼できる窓口となります。さらに、PNG政府内で手続きが停滞した場合には、投資促進庁(IPA)を通じた問題解決を側面支援することも可能です。こうした制度的・実務的な橋渡し機能を活用することで、日本企業は現地パートナーとの共創を円滑に進めることができます。
その一例として2025年11月4日には、IPA主催、PICと在日パプアニューギニア大使館共催による「PNG–Japan Business and Investment Conference」が東京で開催されましたxvi。この場では、PNG政府関係者・日本政府関係者・日本企業・関連機関が一堂に会し、投資環境やビジネス機会について活発な意見交換が行われました。
日本企業がPNGへの進出を検討する際には、PICを通じてPNGのIPA(Investment Promotion Authority)に事前に連絡を取っておくことで、現地制度や手続きの理解が深まり、スムーズな事業展開につながります。
PNGへの環境インフラ展開は今こそ好機
パプアニューギニア(PNG)は、制度整備が途上である一方、環境課題が明確に顕在化している国です。森林減少というグローバルな課題の最前線に位置し、REDD+という国際枠組のもと、制度設計・生活改善・技術導入の三層を同時に求めています。日本はすでにJICAを通じて、森林資源モニタリングやREDD+報告体制の構築といった「制度の根っこ」に関与しており、これは単なる支援ではなく、制度設計の共創者としての立ち位置を確立しつつあります。こうした制度的土壌の上に、日本企業が持つ環境インフラ技術――再生可能エネルギー、水・衛生インフラ、クリーン調理器具、省エネ住宅など――を展開することは、森林保全と生活改善の両立を実現する具体的な手段となります。
制度が固まってから進出することはリスクを抑える上では有効ですが、先行者利益を得ることは難しくなります。これまで日本政府や関係機関、そして一部の企業がPNGで築いてきた実績に加え、現在が制度設計期であることをふまえれば、今こそ環境インフラ輸出の新たな展望を描く絶好のタイミングだと言えるでしょう。例えば、JICAの支援スキームに参画することで、PNGにおける環境インフラ導入の川上段階から関与し、後の調達・導入フェーズで優位に立つことができます。また、環境省の「環境インフラ海外展開基本戦略」やJCM(二国間クレジット制度)枠組を活用することもパプアニューギニアへの効率的な参入への一助になるでしょう。
PNGとの協業は、単なる海外展開ではなく、制度・技術・文化の三位一体による共創の実践です。日本企業が持つ技術と哲学は、PNGの未来にとって不可欠な要素となり得ます。環境課題の解決と国際展開の両立を目指すなら、現時点でパプアニューギニアへの挑戦を開始する意義は極めて大きいと考えられます。
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JICAによる環境教育 |
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両国合計で150名以上が参加したPNG-JAPAN Business |
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執筆者紹介 株式会社海外安全管理本部 プロフィール |
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マクロ情報:パプアニューギニア (2023年)
| GDP(百万米ドル) | 30,729 |
|---|---|
| 人口(百万人) | 12 |
| 1人あたりGDP | 2,502 |
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ⅰ 冒頭写真:PNGには、800以上の民族・言語が共存し、個性豊かな伝統文化が残る
ⅱ REDDプラスへの取組動向 Country Report 平成29年度 パプアニューギニア独立国
https://redd.ffpri.go.jp/pub_db/publications/country_report/_img/2017/05_country_report_papua_2017.pdf
ⅲ GLOBAL FOREST WATCH
https://www.globalforestwatch.org/dashboards/country/PNG/
ⅳ 森林伐採モニタリングシステム改善を通じた商業伐採による森林劣化に由来する排出削減プロジェクト
https://www.jica.go.jp/oda/project/201904492/index.html
ⅴ 途上国における森林減少・劣化の抑制や持続可能な森林経営などによって温室効果ガス排出量を削減あるいは吸収量を増大させる努力にインセンティブを与える気候変動対策
https://www.jica.go.jp/activities/issues/natural_env/platform/reddplus/about/index.html
ⅵ World Bank Announces Transformative Energy Access Project to Benefit 400,000 Papua New Guineans
https://www.worldbank.org/en/news/press-release/2024/11/29/world-bank-announces-transformative-energy-access-project-to-benefit-400-000-papua-new-guineans
ⅶ PAPUA NEW GUINEA ENERGY SECTOR INVESTOR GUIDE
https://www.ipa.gov.pg/Documentation/PG/PNG%20Energy%20Sector%20Investor%20Guide_12%20AUGUST2022%20_508%20compliant_FINAL.pdf
ⅷ National Roadmap for Improving WASH in Healthcare Facilities
https://www.health.gov.pg/pdf/WRM_2023.pdf
ⅸ ポートモレスビー下水道整備事業(POMSSUP)
https://www.jica.go.jp/oda/project/PN-P9/index.html
ⅹ パプアニューギニア|ポートモレスビー下水道整備事業 水分野の円借款で初のSTEP適用案件|海外の土木・建設プロジェクト
https://idj.co.jp/architect/archives/882
ⅺ パプアニューギニア2021 年度 外部事後評価報告書 円借款「ポートモレスビー下水道整備事業」
円借款附帯プロジェクト「ポートモレスビー下水道管理能力向上プロジェクト」
https://www2.jica.go.jp/ja/evaluation/pdf/2021_1602019_4_f.pdf
(指標については13~16ページ参照)
ⅻ 福岡市と福岡大学が共同開発した、微生物によって廃棄物の分解を促す管理方法
https://www.city.fukuoka.lg.jp/kankyo/shisetsu/hp/gijutsu-kyouryoku.html
xiii TEM’s Papua New Guinea cookstove project completes phase one with the successful delivery of 20,000 cookstoves across the Southern Highlands Province
https://www.tasmanenvironmental.com.au/news/tems-papua-new-guinea-cookstove-project-completes-phase-one-with-the-successful-delivery-of-20000-cookstoves-across-the-southern-highlands-province/
xiv Low-cost solutions can give billions access to modern cooking by 2030, but the world is failing to deliver
https://www.iea.org/news/low-cost-solutions-can-give-billions-access-to-modern-cooking-by-2030-but-the-world-is-failing-to-deliver
xv 太平洋諸島センター(Pacific Islands Centre, PIC)
https://pic.or.jp/
xvi 〔実施報告〕「PNG-Japan Business and Investment Conference
(パプアニューギニア貿易&投資セミナー)」開催
https://pic.or.jp/pic_news/10830/


